変形性膝関節症とは、膝の軟骨がすり減り、骨同士がぶつかりあって炎症や痛みを引き起こす疾患です。
変形性膝関節症は40歳以上の女性に多い疾患であり、50歳以降では女性の方が男性よりも1.5〜2倍も多くなります。
女性は男性に比べてホルモンの影響や骨密度の低下などにより、関節の損傷が進みやすいと言われているからです。
変形性膝関節症になる主な原因
変形性膝関節症になる主な原因には次のようなことが挙げられます。
加齢による関節軟骨のすり減り
膝の関節には骨と骨の間に軟骨があり、クッションのような役目をしてスムーズに動くのを助けています。しかし、関節の軟骨は年齢とともに摩耗し、弾力や水分が失われていきます。
その結果、関節の動きが悪くなり、骨同士がこすれあうようになるため、炎症が起こり、痛みが生じます。
女性ホルモンの減少
エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンは、軟骨の形成に必要です。しかし、女性は閉経後にエストロゲンの分泌量が減少します。そのため、軟骨が作られにくくなり、変形性膝関節症に発展すると考えられます。また、女性ホルモンは骨粗鬆症とも関連があると考えられます。
女性ホルモンが減少すると、骨がもろくなりやすいです。膝の骨ももろくなる可能性があることから、変形性膝関節症に発展する原因と考えられます。
肥満
変形性膝関節症の原因には肥満もあるといわれています。とくに急激な体重増加はひざを痛める原因になるでしょう。
膝には体重増加の3倍もの負担がかかると考えられています。つまり、体重が10kg増加すると、膝には30kgの負担がかかることになります。とくに中高年になると、運動不足や食べすぎにより内臓脂肪がつきやすく、体重も増加しやすいです。加齢により、老化した膝関節に追い打ちをかける結果になるでしょう。
O脚やX脚
上記以外の原因には、O脚やX脚も挙げられるでしょう。O脚は両膝が外側に広がり、足と足の間に隙間ができる状態で、X脚は両膝が内側に曲がった状態です。
日本人にはO脚が多いといわれています。O脚やX脚などの脚の変形は膝の片側にかかる負担が大きくなり、痛みが発生する原因になりかねません。
O脚やX脚は体質によるものであり、改善は見込めないと考えられてきました。しかし、最近ではさまざまな矯正ツールや治療法なども登場しています。
日常的な負荷や遺伝
日常的な負荷や遺伝も、変形性膝関節症の原因の1つと考えられています。
普段、膝関節に負担のかかる仕事や生活をしている場合も、変形性膝関節症になりやすいです。具体的には、しゃがむことが多い農業や、重い荷物を運ぶ運送業、長時間立ち仕事をおこなう調理師や理髪師などです。
また、「DVWA」と呼ばれる、変形性膝関節症の発症に関わる遺伝子が発見されています。DVWAに特定の「SNP」と呼ばれる塩基(DNA)配列がある場合、変形性膝関節症の発症リスクは1.6倍にも増えることが明らかです。
変形性膝関節症の症状
関節の動きが悪くなり、痛みや腫れ、変形などの症状を伴います。時間が経つと進行し、徐々に症状が悪化していく疾患です。症状は主に初期・中期・末期に分けられます。
初期症状
初期症状は、膝に違和感やこわばりを感じることがあります。とくに、朝起きたときや、長時間座ったあとで立ち上がるときに強く感じる場合があるでしょう。
また、階段の昇り降りしゃがむ動作などで膝に負担をかけるときも、違和感やこわばりを感じることがあります。痛みよりも少し膝がおかしく感じる程度からはじまる場合が多いです。
初期の段階では膝に明らかな変形はみられませんが、レントゲン検査をすると、軟骨のすり減りや関節間隙の狭小化などが確認できます。
中期症状
中期症状は、膝に激しい痛みや腫れが生じる場合があります。とくに、歩行や運動など膝に負担がかかるときに強く感じられることが特徴です。
また、膝の曲げ伸ばしや回旋などが困難になる場合もあります。そのため、正座やしゃがむ動作、階段の昇り降りが困難になります。
中期の段階では、膝に水が溜まるなど、明らかな変形が見られることも特徴です。たとえば、O脚やX脚などの姿勢異常や、内側や外側の関節面の高低差などが見られます。
末期症状
末期症状では、膝に激しい痛みや腫れが常時生じます。安静時や夜間でも痛みがひどくなる場合があることも特徴です。
また、膝を動かすことが困難になり、歩行や日常生活にも大きな支障をきたすようになります。行動範囲が狭くなるため、精神的にも大きな負担を感じるケースが多いです。
末期の段階では、膝に重度の変形が見られます。具体的には、内側や外側の関節面の完全消失や、骨がとげ状になる、骨棘(こつせい)の増殖などが現れます。
変形性膝関節症の予防方法
変形性膝関節症は完治が難しいため、予防が重要です。
膝関節をはじめとしたストレッチやトレーニング
ストレッチやトレーニングで膝関節の可動域を広げると、軟骨に栄養が行き渡りやすくなります。また、筋力をつけると、膝関節にかかる負担も軽減できます。
具体的には、毎日膝関節を曲げ伸ばししたり、足首やふくらはぎを動かしたりといったストレッチができるでしょう。また、無理のない範囲で、スクワットやレッグプレスなどのトレーニングで太ももやふくらはぎの筋力も鍛えましょう。
正座や和式トイレを避ける
正座や和式トイレは膝関節に強い圧力がかかるため、軟骨のすり減りを速める可能性があります。
できるだけ椅子に座ったり、洋式トイレを使用したりなどを心がけましょう。また、どうしても正座や和式トイレが避けられない場合は、時間を短くしたり、膝にクッションを敷いたりなどの工夫しましょう。
ほかにも、階段の昇り降りや方向転換の際に膝をひねる動きなども、膝に負担が大きい動作です。階段の昇り降りは手すりにつかまるようにしたり、方向転換の際には足を小刻みに移動しながら細かくおこなうようにしたりなど注意しましょう。
適正体重を維持する
変形性膝関節症のほかの予防方法は、適正体重の維持です。
肥満は膝関節に余分な負荷をかけます。そのため、変形性膝関節症の発症リスクを高めるのみでなく、進行も早める可能性があります。
適正体重はBMI(体格指数)を計算すると求められます。BMIは体重を身長の二乗で割った値です。一般的に、BMIが25以上の場合は肥満と判断されます。
バランスの取れた食事や適度な運動に注意して、適正体重を維持しましょう。
膝を冷やさず血行を良くする
最後に、膝を冷やさず血行をよくするのも、変形性膝関節症の予防につながる方法です。膝が冷えると血流が悪化して筋肉の動きが妨げられたり、痛みを感じやすくなったりします。
温かい服装やサポーター、ひざ掛けなどを使用して膝を保温しましょう。また、入浴やマッサージで血行を促進するのもおすすめです。
ただし、膝が急に痛み出したり、腫れや熱を伴う痛みがあったりする場合は、温めると反対に症状を悪化させる恐れがあります。痛む箇所を冷やすようにしましょう。
変形性膝関節症の治療法
保存的治療
変形性膝関節症の症状が軽い場合は、手術をせずに保存的治療をおこないます。保存的療法には運動療法や薬物療法があります。運動療法は、運動により疾患や機能障がいの改善を図る治療法です。
変形性膝関節症が進行すると痛みで足を動かさなくなると、膝周りの筋力が低下し、関節の安定性も悪化するため、膝の周りの筋肉を運動で鍛え、膝の負担を軽減します。
具体的には、ウォーキングのような有酸素運動や、筋トレ、ストレッチなどの運動が取り入れられます。
薬物療法は薬物で炎症や痛みを抑える治療法です。変形性膝関節症の薬としては、外用薬や内服薬、関節内注射などがあります。
手術療法
保存的療法を2~3か月おこなうものの効果が見られず、変形性膝関節症がさらに悪化する場合は手術療法をおこないます。
変形性膝関節症の手術療法には、主に次の3種類があります。
- 関節鏡視下手術
- 高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)
- 人工膝関節置換術
関節鏡視下手術は膝の皮膚の一部を切開し、関節鏡と呼ばれる内視鏡を挿入しておこなう手術です。変形した軟骨の破片を取り出したり、軟骨の表面を滑らかにしたりなどの方法で痛みを軽減します。
高位脛骨骨切り術は脛骨や大腿骨の一部を切り、傾きを矯正する治療法で、O脚やX脚など膝関節の変形が目立つ場合におこなう手術療法です。脚の傾きを矯正すると体重の負荷が集中している位置をずらせ、症状の緩和につながります。
人工膝関節置換術は、膝関節を人工関節に置き換える手術療法です。病気の進行により、軟骨のみでなく骨まで破壊されている場合におこなわれます。
人工関節はステンレスやチタン合金、プラスチックなどの材質でできています。耐用年数は15~20年ほどで、そのあとは再手術が必要になる場合があることがデメリットです。
再生医療
変形性膝関節症の第3の治療法として近年注目を集めているものが、再生医療です。再生医療とは、治療を受ける方自身の細胞や組織を使い関節の軟骨を再生させる方法です。
変形性膝関節症の再生医療では、主に次の3つが材料として使用されます。
- 血液
- 体性幹細胞
- 分化した軟骨細胞
再生医療は自身の細胞や組織を使用するため、拒絶反応が起きない、長期的な効果が持続するなどのメリットがあります。
一方で、手術には高度な知識や技術が必要とされることから手術ができる医師が限られる、保険適用外のため費用が高いなどの点がデメリットです。
再生医療の対象となるのは、人工関節置換術が必要な末期の手前の状態の方です。疾患の進行を遅らせて手術療法が必要な時期を先送りにしたり、進行を食い止めたりなどが治療の目的になります。
コメント