不眠症

誰しも「眠ろうとしてもどうしても眠れない」という不眠体験をもっています。心配事があるとき・試験前日・旅行先など様々な原因がありますが、通常は数日から数週のうちにまた眠れるようになります。

しかし、時には不眠が改善せず長期間にわたって続く場合があります。不眠が続くと日中に様々な不調が出現するようになります。倦怠感・意欲低下・集中力低下・抑うつ・頭重・めまい・食欲不振など多岐にわたります。このように

1. 夜間の不眠が続き

2. 日中に精神や身体の不調を自覚して生活の質が低下する

、この二つが認められたとき不眠症と診断されます。

不眠症は

慢性不眠症(慢性不眠障害)

短期不眠症(短期不眠障害)

の二つに分けられます。不眠と日中の不調が週に3日以上あり、それが3カ月以上続く場合は慢性不眠症、3カ月未満の場合は短期不眠症と診断されます。

目次

不眠症のタイプ

不眠症状には、寝つきの悪い「入眠障害」、眠りが浅く途中で何度も目が覚める「中途覚醒」、早朝に目が覚めて二度寝ができない「早朝覚醒」などのタイプがあります。不眠症状タイプは、原因を探ったり、睡眠薬を選択したりする際に参考になります。

不眠症は国民病

一般成人の30〜40%が何らかの不眠症状を有しており、女性に多いことが知られています。不眠症状のある方のうち、慢性不眠症は成人の約10%に見られ、その原因はストレス、精神疾患、神経疾患、アルコール、薬剤の副作用など多岐にわたります。加齢とともに不眠症状は増加し、60歳以上では半数以上の方で認められます。また、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症などの大きな災害があった後には一過性に増加します。このように、不眠症は特殊な病気ではありません。よくある普通の病気なのです。実際、日本では成人の5%が不眠のため睡眠薬を服用しています。

睡眠時間は問題ではない

睡眠時間には個人差があります。日本人の睡眠時間は平均して7時間半程度ですが、その人にとって十分な睡眠時間(必要睡眠時間)には大きな開きがあります。ごく稀にですが3、4時間ほどの睡眠で間に合っている人(ショートスリーパー)もいれば、10時間ほど眠らないと寝足りない人(ロングスリーパー)まで様々です。また、健康な人でも年齢とともに必要睡眠時間は徐々に短くなります。「若い頃はもっと眠れたのに」は禁物です。

また最初にも書きましたが、不眠症は不眠そのものだけではなく「日中に不調が出現する」ことが問題なのです。眠りが浅く感じられても、昼間の生活に支障がなければ不眠症とは診断されません。睡眠時間が短いことや目覚めの回数にこだわりすぎないことが大事です。

不眠の原因

不眠症は一つの病気ではありません。大部分の不眠症にはそれぞれ原因があり、対処法も異なります。主な不眠の原因とその対処法について簡単に表にまとめたので参考にしてください。

特に大事なのは、不眠症状を伴う様々な睡眠障害と誤診をしないことです。睡眠時無呼吸症候群レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)周期性四肢運動障害・うつ病による不眠や過眠などは、専門施設での検査と診断が必要です。これらの特殊な睡眠障害にはそれぞれの治療法があり、通常の睡眠薬では治りません。これらの睡眠障害が疑われる場合には、日本睡眠学会(http://jssr.jp/)の睡眠医療認定医や精神科医、脳神経内科医などへのご相談をお薦めします。

ストレスストレスと緊張はやすらかな眠りを妨げます。神経質で生真面目な性格の人はストレスをより強く感じ、不眠にこだわりやすく、不眠症になりやすいようです。 

からだの病気高血圧や心臓病(胸苦しさ)・呼吸器疾患(咳・発作)・腎臓病・前立腺肥大(頻尿)・糖尿病・関節リウマチ(痛み)・アレルギー疾患(かゆみ)・脳出血や脳梗塞など様々なからだの病気で不眠が生じます。不眠そのものより、背後にある病気の治療が先決です。原因となっている症状がとれれば、不眠はおのずと消失します。

こころの病気多くのこころの病気は不眠を伴います。近年は、うつ病にかかる人が増えています。単なる不眠だと思っていたら実はうつ病だったというケースも少なくありません。不眠症状や過眠症状(眠気)とともに、気分の落ち込みや意欲減退(何事も億劫)、興味の減退(趣味が手につかない)などの症状がみられる場合には早めに専門医を受診してください。
その他の睡眠障害睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)など、睡眠に伴って呼吸異常や四肢の異常運動が出現するために睡眠が妨げられ、不眠症状が出現する場合も珍しくありません。
薬や刺激物治療薬が不眠をもたらすこともあります。睡眠を妨げる薬としては、降圧剤・甲状腺製剤・抗がん剤などが挙げられます。また、抗ヒスタミン薬では日中の眠気が出ます。コーヒー・紅茶などに含まれるカフェイン、たばこに含まれるニコチンなどには覚醒作用があり、安眠を妨げます。カフェインには利尿作用もあり、トイレ覚醒も増えます。
生活リズムの乱れ交替制勤務や時差などによって体内リズムが乱れると不眠を招きます。現代は24時間社会といわれるほどで昼と夜の区別がなくなってきていますから、どうしても睡眠リズムが狂いがちです。
環境騒音や光が気になって眠れないケースもみられます。また寝室の温度や湿度が適切でないと安眠できません。

不眠への対処法

不眠対処の第一歩は先に挙げたような様々な不眠の原因を診断し、取り除くことです。それに加えて自分流の安眠法を工夫することが効果的です。安眠のためのコツを以下にまとめました。

●就寝・起床時間を一定にする

睡眠覚醒は体内時計で調整されています。週末の夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のしすぎは体内時計を乱すので注意してください。平日・週末にかかわらず同じ時刻に起床・就床する習慣を身につけることが大事です。日中に眠気があるときは午後3時前までに30分以内の昼寝をとると効果的です。

●睡眠時間にこだわらない

睡眠時間には個人差があります。「◯◯時間眠りたい!」と目標を立てないでください。どうしても眠気がないときは思い切って寝床から出ましょう。眠れずに悶々としたまま寝床にいると、不安や緊張が増してますます目が冴えてしまいます(後述の「不眠恐怖の悪循環を断つ」参照)。

●太陽の光を浴びる

太陽光など強い光には体内時計を調整する働きがあります。早朝に光を浴びると夜寝つく時間が早くなり、朝も早く起きられるようになります。すなわち「早寝早起き」の順番ではなく、「早起きすることが早寝につながる」のです。逆に、夜に強い照明を浴びすぎると、体内時計が遅れて早起きが辛くなります。

●適度の運動をする

ほどよい肉体的疲労は心地よい眠りを生み出してくれます。運動は午前よりも午後に、軽く汗ばむ程度の運動をするのがよいようです。激しい運動は交感神経を興奮させてむしろ寝つきを悪くするため逆効果です。短期間の集中的な運動よりも、負担にならない程度の有酸素運動を根気強く継続することが効果的です。

●自分流のストレス解消法を

ストレスは眠りにとって大敵。音楽・読書・スポーツ・旅行など、自分に合った趣味をみつけて上手に気分転換をはかり、ストレスをためないようにしましょう。

●寝る前にリラックスタイムを

睡眠前に副交感神経を活発にさせることが良眠のコツです。ぬるめのお風呂にゆっくり入り、好きな音楽や読書などでリラックスする時間をとって心身の緊張をほぐします。半身浴は心臓への負担も少なく、副交感神経を優位にさせ、睡眠の質を向上させてくれることが分かっています。

●寝酒はダメ

お酒は睡眠にとって百害あって一利なし。特に深酒は禁物です。寝酒をすると寝つきがよくなるように思えますが、効果は短時間しか続きません。飲酒後は深い睡眠が減り、早朝覚醒が増えてきます。お酒は楽しむもの。不眠対処に使ってはなりません。

●快適な寝室づくりを

眠りやすい環境づくりも重要なポイントです。ベッド・布団・枕・照明などは自分に合ったものを選びましょう。温度や湿度にも注意が必要です。睡眠のための適温は20℃前後で、湿度は40~70%くらいに保つのがよいといわれています。寝具や照明については「快眠のためのテクニック」「快眠と生活習慣」で解説しています。

不眠恐怖の悪循環を断つ

眠れない日々が続くと「また今夜も眠れないのではないか」と不安になり、「早く眠らなければ」と焦れば焦るほど目が冴えてしまう――。不眠症の方が共通して経験する不安です。「一過性で終わるはずだった不眠が慢性化して不眠症になる」、その背景にはこのような「不眠恐怖」があります。不眠が続くうちに寝床に向かうだけで緊張してしまい、夜になるのが憂うつになってきます。そのようなときは、「どうせいつかは眠くなるのだから、眠くなるまで起きていよう」くらいに割り切ったほうが好結果をもたらします。

実際、「眠れないのに我慢して無理に寝床にいる」と、不眠が悪化することが分かっています。常識的な範囲内で寝床の中で休む時間を決めておき、眠れなければベッドから出ること、前日の睡眠状態にかかわらず日中はなるべく活動的に過ごすことが大切です。前の晩に眠れなくて仕事に集中できない、眠くてしようがないという場合には、昼休みを利用して昼寝をするといいでしょう。30分以内で十分です。たとえ短時間でも脳の疲労をとるのに効果があり、スッキリと目覚めることができます。

専門医に相談することを躊躇しない

不眠症の治療はかかりつけの病院で治療されることが大部分です。不眠が続く場合には、まずかかりつけ医に相談してみるといいでしょう。病院を受診して不眠について相談するだけでも不眠恐怖は和らぎます。睡眠指導や睡眠薬などによる治療を受けても治らないときには精神科や心療内科などの専門医に相談をしましょう。

大切なのは、眠れないことを一人でくよくよ考え込まないこと。心配する気持ちそのものが、不眠を悪化させるだけではなく、こころ(うつなど)やからだ(ストレス性疾患など)に悪影響を与えてしまうということです。

睡眠薬は怖いクスリ?

答えは「NO!」です。現在の不眠治療は、睡眠薬を用いた薬物療法が中心です。「睡眠薬は一度使い始めると手放せなくなる」「次第に量が増えていくので副作用が怖い」「服用していると認知症になってしまう」など、睡眠薬に関して恐怖心を抱いている方が多いようですが、正しく服用すれば過度の心配はいりません。また最近は、依存性や認知機能障害の心配が少ない睡眠薬も開発されています。ただし、長期にわたって漫然と使い続けるのはよくありません。医師の指導の下に適切に使用することが大事です。

最近、ドラッグストアで購入できる市販の睡眠薬が売られています。これはアレルギー薬の副作用(眠気)を利用したもので、あくまでも短期間の使用に限られています。不眠症に対する治療効果は確かめられていませんので、不眠症の方はこれら市販の睡眠薬を長期に用いてはなりません(薬の注意書きにもそのように書いてありますので確認してください)。

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